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【開館20周年記念 Ⅲ】<企画展>

日本の絵本100年の歩み

今日に至るまでの100年におよぶ日本の絵本の歩みをたどってみると、そこには激動の社会情勢に翻弄されつつも、子どもたちに希望や自由を手渡すための、よすがとして、脈々と連なってきた豊かな表現を見て取ることができます。日本の絵本の歩みを、ちひろ美術館コレクションも含めた貴重な資料と原画でたどる本展は、内容を替えてちひろ美術館・東京でも開催します。本稿では大正期から1960年代までの日本の絵本を中心に紹介し、続編はちひろ美術館・東京の美術館だよりに掲載します。

1910年代~40年代前半―童画の誕生

1910年代、大正デモクラシーの機運を背景に、童話や童謡を中心とした子ども向けの雑誌が相次いで創刊されました。子どもたちに本物の芸術に触れてもらおうと、一流の作家や作曲家、画家が参加します。鈴木三重吉が主宰した童謡雑誌「赤い鳥」の創刊号を飾ったのは、清水良雄の絵でした。

清水良雄 お馬の飾り「赤い鳥」創刊号表紙 1918年 ちひろ美術館蔵

「子供之友」では、漫画家の北澤楽天や画家の竹久夢二、村山知義らが起用され、子どもたちを楽しませる視覚的な要素が重視されました。
さらに、子どもたちに童話や童謡、季節の風物や行事などを絵を中心に伝える絵雑誌が生まれ、「コドモノクニ」を始めとする芸術性の高い絵雑誌を舞台に岡本帰一、武井武雄、初山滋といった画家が活躍し、「童画」という言葉が誕生します。文章のための添えられた絵ではなく、ひとつの独立した芸術として、童画は今日の日本の絵本の礎となりました。洒脱で都会的な童画のイメージは、当時の子どもたちに強烈な憧憬を掻き立てました。いわさきちひろも「コドモノクニ」に夢を抱いた子どものひとりです。絵雑誌は、次世代の絵本のつくり手や、芸術家に大きな影響を与えました。
しかし、昭和期に入り、日中戦争、第二次世界大戦による物資不足や出版統制があいまって、次第に絵雑誌のなかから自由で豊かな表現が消え、統廃合が繰り返されて、絵雑誌は衰退の一路をたどることとなります。

初山滋 蝶サンウツシマスヨ 「コドモノクニ」より 1933年 個人蔵

1950年代―「岩波子どもの本」と「こどものとも」

第二次世界大戦後、日本中に焼け野原が広がるなかで、民主主義という新しい思潮に支えられ、子どもたちに美しいものや、希望を与えるべく、絵本は再び息を吹き返します。石井桃子が編集長をつとめた「岩波子どもの本」では、高い水準の外国の翻訳絵本が刊行され、絵本のつくり手たちに刺激を与えました。このシリーズから、日本の作家と画家による創作絵本も生まれ、今日まで親しまれています。機関車を主人公にした『きかんしゃやえもん』もそのひとつです。

阿川弘之・文 岡部冬彦・絵『きかんしゃやえもん』(岩波書店)表紙 1959年

1956年、福音館書店は月刊絵本「こどものとも」を創刊します。編集長の松井直は、さまざまなジャンルから個性豊かな才能のある描き手を起用し、質の高い創作絵本を毎月刊行しました。初期の絵本のなかには、宮沢賢治の童話を茂田井武が描いた『セロひきのゴーシュ』の他、子どもの集団生活をちひろが描いた『みんなでしようよ』も含まれます。

いわさきちひろ 大きな時計をつくる子どもたち『みんなでしようよ』(福音館書店)より 1956年 ちひろ美術館蔵

「こどものとも」のテーマは、昔話や童話、子どもの生活に即した物語や科学など、その内容は多岐にわたります。子どもへの教条的な視点からではなく、子ども自身の発想に近づき、想像力や好奇心を刺激する内容は、子どもたちの人気を博し、繰り返し手に取られてきました。「こどものとも」では、横長の判型に横書きの文章も採用され、場面の展開を意識した絵本独自の表現が模索されるようになります。赤羽末吉の『だいくとおにろく』では、白黒とカラーのページが交互に展開し、「墨絵」と「大和絵」の表現で描き分けられています。日本の伝統的な美術の技法を取り入れて、格調の高い美しさと親しみやすさを見事に両立させています。

赤羽末吉『だいくとおにろく』(福音館書店)より 1967年 ちひろ美術館蔵

 

1960年代―あかちゃんから大人まで楽しむ絵本

1960年代に入ると、高度経済成長期の好景気を背景に、各出版社から趣向を凝らした単行本の創作絵本が刊行されるようになります。至光社では、編集長・武市八十雄が企画編集して、世界でも評価されるような芸術性の高い絵本づくりに取り組みます。ちひろと組んだ『あめのひのおるすばん』もそのひとつで、詩情豊かな絵で展開する絵本は、感じる心に訴えかけ、子どもだけではなく、大人も魅了しました。

瀬川康男『いないいないばあ』(童心社)より 1967年 ちひろ美術館蔵

一方で、あかちゃんを対象にした絵本も生まれます。童心社の編集長・稲庭桂子は、あかちゃんにも妥協のない文と絵による良い絵本をと考え、あかちゃん向けの絵本を企画します。『いないいないばあ』は、ことばのリズムと絵の展開で、乳幼児向けの伝承遊びを絵本にしたものです。松谷みよ子の文章、瀬川康男の絵、辻村益郎のブックデザインにより、あかちゃんの五感に訴えるミリオンセラーの絵本が誕生しました。

出展作家

赤羽末吉、あきびんご、あべ弘士、荒井良二、安野光雅、伊藤秀男、井上洋介、いわさきちひろ、いわむらかずお、上野紀子、宇野亜喜良、太田大八、大竹伸朗、岡部冬彦、岡本帰一、かこさとし、梶山俊夫、片山健、北澤楽天、木葉井悦子、五味太郎、ささめやゆき、さとうわきこ、佐野洋子、清水良雄、杉浦範茂、スズキコージ、瀬川康男、せなけいこ、武井武雄、武田美穂、竹久夢二、田島征三、田島征彦、谷内こうた、たむらしげる、長新太、出久根育、中谷千代子、西巻茅子、西村繁男、はたこうしろう、初山滋、馬場のぼる、浜田桂子、100%ORANGE、深澤省三、堀内誠一、丸木俊、ミロコマチコ、村上康成、村山知義、茂田井武、元永定正、八島太郎、薮内正幸、山本容子、わかやまけん、和田誠
(敬称略・五十音順)

展示作品入替について

本展では以下の作品は会期を限定して展示をします。

2017年7月8日(土)~8月7日(火)
 竹久夢二 青い海「子供之友」1915年
 武井武雄 雀の洋服「子供之友」1927年
 宇野亜喜良 『あのこ』カバー イラストレーション 1966年

2017年8月9日(木)~9月12日(火)
 北澤楽天 象の富士登山「子供之友」1914年
 村山知義 エノガッコウ「子供之友」1925年
 宇野亜喜良 『あのこ』より 1966年

本展は内容を替えてちひろ美術館・東京(11月8日~2018年1月31日)に巡回します。
ちひろ美術館・東京の会期に合わせて展覧会図録を刊行する予定です。
詳細は決まり次第、当館公式サイトにてお知らせします。