タチヤーナ・マーブリナ (ロシア)『ロシアの昔話』(福音館書店)より 1950年
ちひろ美術館では優れた子どもの本のイラストレーションを貴重な文化財と位置づけ、世界34の国と地域、207名の画家による27200点を収蔵しています。本展では、古くから親しまれている世界各国の物語を描いた作品を展示します。
世代を超えて語り継がれてきた民話や昔話、200年以上も前に誕生したアンデルセンやグリムの童話をはじめとして、今なお世界中の人々に愛されている物語は、洋の東西を問わず多くの絵本画家たちを魅了してきました。同じ物語を題材にしても、画家によって表現や技法が異なり、個性豊かな作品が生まれています。
スロヴァキアのヤナ・キセロヴァー・シテコヴァーは、アンデルセンの『おやゆびひめ』を、小さくて無防備だけれど、とても勇敢な女の子と解釈したと語っています。いわさきちひろの描く可憐な姿(表紙)とは対照的に、行動的な印象を受けます。布にテンペラとインクで描く独特の手法で、人物や草花、虫や動物たちを緻密に描写し、架空の物語に不思議なリアリティーを与えています。
アンデルセン童話からはほかに、クヴィエタ・パツォウスカーの『すずの兵隊』、初山滋の『人魚姫』などを展示します。近代の創作童話の祖といわれるアンデルセンに対して、17世紀末フランスのシャルル・ペローや19世紀ドイツのグリム兄弟は、民話や伝説などの口承文学を収集、再編して童話にまとめました。展示では、エリック・バトゥーの『ペローの青ひげ』、グリム童話からはローベルト・ブルンの『おかしの家のおとぎばなし』のほか、「赤ずきん」「白雪姫」「シンデレラ」などの絵本原画を紹介します。
1200年以上の歴史と多民族からなるロシアもまた、昔話や民俗芸術の豊かな伝統があります。タチヤーナ・マーブリナは、消えゆく祖国の文化を守ろうと古い教会や街並みをスケッチに残し、工芸品や農民絵画の研究もしていました。「イワン王子とはいいろ狼」では、そうした成果も生かしながら、ロシアの昔話の世界を、鮮やかな色彩とのびやかな筆致でいきいきと描き出しています。
中国の于大武(ユーダーウー)は、工筆画と呼ばれる伝統的な絵画技法を用いて、古典「三国志演義」を絵本にしています。『十万本の矢』では、霧のなか長江を進んでいく船団の情景を、構図や色彩にも変化をもたせて雄大に描いています。絵に登場する伝統的な建物や民族衣装からは、背景にある世界の多様な文化も見えてきます。描かれた物語を読み解きながら、絵本画家たちによるおはなしの世界をお楽しみください。
SNS Menu