ラチョフ展の見どころ紹介⑥ ちひろ美術館コレクション 民話絵本の世界
ちひろ美術館・東京で開催中の企画展「生誕120年『てぶくろ』の画家ラチョフと民話絵本の世界」について、展示担当学芸員が、その見どころを全6回で紹介します。
第6回
ちひろ美術館コレクション 民話絵本の世界
本展では、ちひろ美術館のコレクション作品のなかから、ロシアの民話絵本の世界を紹介しています。展示室2では、ラチョフや、彼と同時代に活躍したマーヴリナも含め、7人の画家の作品をご覧いただけます。
マイ・ミトゥーリッチ(1925-2008)とヴィクトル・ドゥヴィードフ(1932-2000)は、ともに、スターリン死後の“雪どけ”の時代に活躍し、“60年代画家”と呼ばれています。
ミトゥーリッチは、第二次世界大戦のさなか、若干17歳で従軍し、ラチョフ(当時30代半ば)と同じ部隊に配属されました。戦後、絵本出版社の主任画家となったラチョフは、かつての戦友として、ミトゥーリッチの仕事を援助することもあったといいます。本展では、「クルイロフの寓話」を描いた2点のリトグラフ作品を展示しています。

ドゥヴィードフは、第二次世界大戦の前哨戦ともいわれるスペイン内戦で両親を亡くし、ロシアの養父母のもとで育てられました。展示中の『せむしの小馬』は、生まれ故郷スペインの陽気を感じさせるような、原色に近い鮮やかな色彩で描かれています。刊行寸前にソ連が崩壊し、社会不安が広がったことで、出版されずに画家のもとに残された作品です。

ニコライ・ポポフ(1938-2021)は、幼少期を戦争のなかで過ごしました。ソ連崩壊後の困窮のなか、画材を手に入れることも難しくなると、ポポフは、街角で拾ったボロ靴や木切れを使ったジャンクアートに取り組みました。ボロ靴を車や船に見立てた「ねずみのオブジェ」のイメージは、絵本『なぜあらそうの?』のなかにも登場します。

現在もアニメーション監督として活躍しているユーリー・ノルシュテイン(1941-)と、その妻であり彼の作品の多くの美術監督を務めるフランチェスカ・ヤールブソワ(1942-)による絵本『きつねとうさぎ』は、1973年の短編アニメーションをもとにつくられました。ガラジェッツの糸つむぎ板に描かれた民衆絵画を参考にしたという工芸品のような味わいと、民話特有のリズミカルなテンポが見事に表現されています。

チェコ在住の出久根育(1969-)による『マーシャと白い鳥』は、白い鳥にさらわれてしまった弟を探して、マーシャが困難を乗り越え、弟を取り戻す物語です。出久根は、さまざまな困難にひとりで立ち向かう少女の姿に、チェコに移り住み、新しい世界へ飛び出していく自身を重ね合わせたと語っています。本展では、絵本の全場面(見返しを除く)を展示しています。

困難な時代のなかでも、画家たちは自身の表現の道を模索し、子どもたちに豊かな文化を伝えたいと願い、絵筆をとりました。彼らが紡いだ民話は国境を越えて愛され、日本の画家たちもまた自身のイメージをふくらませた新たな民話絵本を生み出しています。
展示室には、ロシア、ウクライナ、ベラルーシなど、東スラブの民話絵本を読めるコーナーもありますので、ぜひ手に取ってみてください。
▽開催中の展覧会 3月1日(日)~5月10日(日)
生誕120年『てぶくろ』の画家ラチョフと民話絵本の世界
ちひろ いつもとなりに―子どもと動物―
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