ラチョフ展の見どころ紹介⑤ ロシアの絵本の歴史をひもとく
ちひろ美術館・東京で開催中の企画展「生誕120年『てぶくろ』の画家ラチョフと民話絵本の世界」について、展示担当学芸員が、その見どころを全6回で紹介します。
第5回
ロシアの絵本の歴史をひもとく
ラチョフは、ふたつの大戦と革命、世界初の社会主義国家の誕生と崩壊という激動の時代を生きた画家でした。本展では、ラチョフが生きた時代のロシアの絵本の歴史をひもとくコーナーを設けています。
長い歴史と100以上の民族からなるロシアには、民話や民族芸術の豊かな伝統があります。19世紀末から20世紀初頭、ラチョフが生まれた帝政ロシア末期の時代、ビリービンは、自国のイコンやルボーグ(民衆版画)をふまえながら、同時代のヨーロッパで流行していたアール・ヌーヴォーを取り入れ、ロシア民話を美しい絵本に描きました。
1917年のロシア革命とその後の内戦を経て、ソビエト社会主義共和国連邦が成立すると、政府は、次代を担う子どもの育成に力を入れ、国立出版所に、才能ある作家や画家が集められました。マルシャークが文学、レーベデフが美術の指導にたち、実験的でありながら、質量ともに子どもの本の隆盛期を迎えました。

1930年代、スターリンの独裁政治が強化されると、画家の自由な創作活動は許されなくなりました。政府は、民衆が生み出した民話を文化基盤として尊重し、国家事業として膨大な数の民話集や民話絵本を出版しました。この時期に、今なお世界中で読み継がれる名作絵本、ラチョフの『てぶくろ』(1951)が生まれました。
スターリン死後の“雪どけ”時代に至り、ようやくマーヴリナや、ミトゥーリッチやドゥヴィードフら“60年代画家”たちが、いきいきと創作を始めることになります。彼らは、幼少期に、ビリービンをはじめとする先人がつくり上げた美しく革新的な絵本に触れてきた世代でもありました。画家たちの絵本づくりへの情熱が種となり、困難な時代を越えて、新たな世代に芽吹いたといえるでしょう。

▽開催中の展覧会 3月1日(日)~5月10日(日)
生誕120年『てぶくろ』の画家ラチョフと民話絵本の世界
ちひろ いつもとなりに―子どもと動物―
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