[表紙の作品]いわさきちひろ 毛糸を編む少女 1972年

少女は立ったまま夢中になって、何を編んでいるのでしょうか。口元のほほ笑みから、楽しんでいるようすが伝わってきます。あたたかな緋色の背景のなか、白抜きの技法を使い、光に包まれたような姿として少女をとらえています。ちひろ自身も小学校のころ編み物に親しんでいました。4年生のときに書いた作文では、クリスマスを前に、妹はお手伝いさんに贈るものを、ちひろは人形に着せるセーターを、母親はちひろのためにセーターをそれぞれ編み始め、急に静かになった情景を記しています。この絵には、子どものころに経験した豊かな静寂の時間の想い出が重ねられているのかもしれません。