絵本でつなぐ「へいわ」のメッセージ:「大きくなったねえ。」

二十八日の夕方、向かいの山にお日さまがほとんどしずみかけたころ、二里あまりの道を荷物を肩に、お父さまと大きいお兄さまが、てくてく歩いて帰ってこられたのです。お父さまは、「大きくなったねえ。」といって、私をすぐひざの上にだいてくださいました。私が末っ子なものだから、お父さまはいつもひざにだいてくれたのです。…

それがどうしたのでしょう。その翌日になって、お母さまのおそうしきのため、いろいろとじゅんびをしておられたお父さまが、すこし熱があるようだからと言って、ねつかれたのです。…

とつぜんお父さんは、「ああ、あれは地獄だったよ。」とつぶやくようにおっしゃいました。…そうして、一時間ばかり苦しみぬかれて、この世をさっていかれました。

長野俊子 小学五年生(五歳)より、一部抜粋
*記載は作文を書いたときの学年。( )内は、原爆投下当時の年齢。

いわさきちひろ ひまわりとほおづえをつく少女 1971年

―――――

俊子さんは、愛媛県へ疎開していました。広島の家にいたお母さんを原爆で亡くし、にげのびてきたお父さんも、まもなくしてなくなりました。『1945年8月6日 あさ8時15分、わたしは』には、2025年に85歳の俊子さんが書いたことばが掲載されています。

ことば:『1945年8月6日 あさ8時15分、わたしは』(童心社、2025年)より

―――――

◆絵本でつなぐ「へいわ」のメッセージ
戦後80年 ちひろと世界の絵本画家たち 絵本でつなぐ「へいわ」 の開催にあわせて、本展に寄せられた出品作家からのメッセージ、そして、広島で被爆した子どもたちのことばを、会期中、少しずつご紹介していきます。

◆開催中の展覧会:2025年7月26日(土)~10月26日(日)
戦後80年 ちひろと世界の絵本画家たち 絵本でつなぐ「へいわ」