展示作品より② 雑誌「星」の表紙絵

現在開催中の「谷内こうた展 風のゆくえ」から、いくつか作品をご紹介します。

谷内こうたは、絵本のみならず、雑誌、タブローとさまざまなかたちで絵を描いていました。
雑誌の表紙絵は、何誌も手がけ、彼の作品が人気であったことがうかがえます。本展では、いくつかの雑誌のためのイラストレーションを展示しており、そのなかでも初期の作品が、東京ガスの広報誌「星」のための表紙絵です。


1971年に初めて渡欧したころから谷内は「星」の依頼を受けて仕事をしており、最初は隔月刊、後に季刊となったこの雑誌に、1984年まで13年間描き続けました(「星」は1988年に刊行終了)。雑誌本体は、葉書をひとまわり大きくした版型で、原画もそれよりは大きいものの、タテは30cmに満たないのです。その限られた画面のなかに、谷内は、なにげないヨーロッパの街角の季節の風景を凝縮して見せてくれます。

谷内こうた 宿の裏庭 1978年(個人蔵)

この作品は、春らしい色合いも、中央の木と洗濯物を干す小さな女性の構図も目をひき、あたかもその場が木に咲く花によって明るくなったような気持ちになります。雑誌には谷内自身による、表紙絵につけたことばも掲載されています。「宿の裏庭」と題されたこの絵に、彼はこう書いています。「旅の楽しみは、予期せぬ出会いにあります。歩き疲れた夜に泊まった、小さな村の小さな宿。目覚めて窓を開けると、緑と白の鮮やかなコントラスト。感動的な出会いのひとつです。

谷内こうた クリスマスまで 1977年(個人蔵)

もう1点ご紹介しましょう。「クリスマスまで」と題されたこの作品では、寒い夜空の下、あたたかい白熱電球の光が建物、道、そして店の前のふたりを照らしています。細部が描かれていないだけに、見る者の好奇心をかきたて、絵のなかに各自が物語を見いだすのではないでしょうか。谷内のことばです。「商店街が、電球で飾られると、見慣れた通りも、どこか楽しい所へ通じているような錯覚を起こします。もう遅い夜、親子が、オモチャ屋のウィンドーを見ながら、クリスマスの日を話し合っていました。

「星」のための原画は、このほかにも6点展示しており、図録には、安曇野で展示した作品、展示中の作品とあわせて9点掲載されています。ぜひご覧ください。(M.M.)

9月2日(土)には 、当館学芸員が開催中の展覧会の見どころなどをお話しする、ギャラリートークを開催いたします。企画展「谷内こうた展 風のゆくえ」をわかりやすくご紹介しますので、ぜひご参加ください。

日時:9月2日(土)14:00~
参加費:無料(入館料別)
定員:15名
申し込み:当日10時より受付にて整理券をお配りします。

◆図録『谷内こうた 風のゆくえ』
オンライン販売はこちら(平凡社公式サイトへ移動します)