あべ弘士 『ライオンのながいいちにち』(佼成出版社)より 2003年頃
地球上に生きるさまざまな動物たち。森のなかひっそりと暮らすアナグマやイノシシ、アフリカのサバンナを闊歩するライオンやヌーの大きな群れ、一年中雪と氷に覆われた極地でたくましく生きるホッキョクグマ——。変化に富んだ複雑な生息環境や、人との関わりによって多様な種にわかれた動物たちは、それぞれがユニークな特徴を持っています。本展では、ちひろ美術館コレクションのなかから、世界の絵本画家が描いた動物たちを「森へ」「ジャングルの暮らし」「サバンナのなかま」「ちいさいがいっぱい」「人の一番近くで」「人の暮らしとともに」の6 つのテーマにわけて紹介します。
森へ
ユーラシア大陸北部に広がる針葉樹林や温帯林には、キツネやシカ、ヒグマなど、広い地域で共通した動物が多く見られます。陸続きだった時代があるため、日本にもこうした共通種が存在します。
エフゲーニー・ラチョフが描いたウクライナ民話の絵本『てぶくろ』には、わたしたちにも馴染み深い動物が、洋服を着て登場します。ラチョフは民話に登場する動物を、人間の性格や社会的地位などを暗示し強調した存在であるととらえ、それを表現するために動物たちに民族衣裳を着せています。広大な針葉樹林とツンドラ(永久凍土に覆われた極寒の草原)が出会うロシアの美しい自然のなかで少年時代を過ごし、ウクライナの自然公園で野生動物の観察を続けたラチョフは、姿態の特徴をよくとらえたリアルな動物たちに人間の心を巧みに重ね合わせています。本展では、当館が収蔵する『てぶくろ』の原画全7 点を、習作も含め展示します。
サバンナのなかま
アフリカ大陸中部に位置する、まばらに木の生えた熱帯の草原・サバンナでは、ヌーなどの大型草食動物が何千頭にもおよぶ大きな群れを成し、草を求めて移動しながら暮らしています。そして、こうした群れの存在が、ライオンを始めとする肉食動物のいのちを支えています。
「生命はぐるぐるまわっている」——旭山動物園の飼育員という経歴を持つ画家・あべ弘士は、何度も訪れたアフリカの大地で壮大な生命の循環を感じたといいます。どこまでも続く青い空とサバンナ、そのなかで圧倒的な存在感を放つ動物を大胆な筆致と鮮やかな色彩で描いたあべの絵本『ライオンのながいいちにち』の原画を、一堂に展示します。
動物を見分けてみよう!
動物は、それぞれが持つ体の特徴から、「種」というグループに分けられます。同じサイでも、1 本角のサイはアジアに、大きな2 本角を持つサイはアフリカに生息し、5種が現存しています。それぞれ口元や皮膚に違いがあり、外見で見分けることができます。
ユゼフ・ヴィルコンは、フランスの映画俳優ジャン・ギャバンをサイに見立てて描きました。洋服を着て、俳優の面差しを残したサイにも、ヴィルコンは動物本来の特徴を細かく描き込んでいます。動物写真と見比べながら、作品を観察するコーナーも設けます。
ときには写実的に、ときにはユーモラスに、さらにはイメージをふくらませて、画家が描いた動物からは、画面から飛び出してくるような、いきいきとしたいのちの輝きが感じられます。魅力あふれる動物たちをご覧ください。
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