いわさきちひろ 傘と子どもたち 1969年
ちひろは、季節や時間帯によって多彩な表情を見せる光や空、濡れた色を映し出す雨の情景などを、みずみずしい感性で描きました。本展では、雨のなか傘をさして遊ぶ姿や、明るい日差しをあびて遊ぶ子どもを描いた作品などを、水彩の技法にも着目しながら紹介します。
雨ににじむ色
雨が降ると、見慣れた風景がいつもとは違った表情を見せます。街並みは雨の向こうに透け、地面は水鏡となって周囲の色を映し出します。「黄色い傘のふたり」の背景には、傘の黄色や長ぐつの紫、雨をイメージさせる水色などが、複雑ににじみあっています。使われている絵の具の色数は多くはありませんが、たっぷりと水を含ませ、紙の上でほかの色とにじませることで、透明感のある豊かな色のバリエーションを生み出しました。
光や風を描く
ちひろは、淡い色彩や紙の白を生かして移ろう光を、描きました。「夏草のパーティー」では、草のかすれたタッチや余白によって、また左側の少女の服を描かず紙の白地に消失させることで、まぶしい光の反射を表現しています。
ちひろが文も手がけた至光社の絵本では、主人公の心境と空模様を重ねたような表現がよく見られます。『ぽちのきたうみ』では、夏休みの旅先で愛犬の到着を待ちわびていた少女が、小犬とともに海辺を走るシーンが印象的です。少女のよろこびと呼応するように、夏の海と夕暮れの空が色鮮やかに描かれています。ちひろの絵からは、光や風、肌で感じる空気までもが伝わってくるようです。
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