おうちで絵本のじかん『あめのひのおるすばん』

現在、感染症拡大防止のため、すべての館内でのイベントを中止しているのですが、定例の「絵本のじかん」(通常は第2・4土曜日に開催/現在休止中)の代わりに、ご自宅でも絵本に親しんでいただける「おうちで絵本のじかん」をお届けします。

今回ご紹介するのは、ちひろが絵も文も手がけた至光社の絵本シリーズ第一弾となった『あめのひのおるすばん』です。

「岩崎さん! 絵本でなければできないことをしよう。画集でもなく、紙芝居を集めて綴じたものでもなく、物語にさし絵をつけたものでない絵本を! それはなんだかまだわからないが、とにかく世界の絵本は、新しく動き始めているんです。映画でも、テレビでも、芝居でもない“絵本の世界”という海に、船出しませんか」
『いわさきちひろ作品集6 ぎんいろの童画集』(岩崎書店)より 1976年

至光社の編集者・武市八十雄のこのことばに呼応して取り組んだ絵本『あめのひのおるすばん』は、ちひろに新境地を切り拓かせることになりました。

絵と詩のようなことばで展開するこの新しい絵本には、雨ににじむ光景や音の表現に、少女の揺れる心が映し出されています。お子さんとともに、またはご自身に語りかけながら、ページをめくってみてください。

以下、いつもは「絵本のじかん」でご紹介しているちひろの絵本のエピソードを、画像とともにご紹介します。

いわさきちひろ 『あめのひのおるすばん』(至光社)表紙

いわさきちひろ くちもとに指をそえた少女『あめのひのおるすばん』(至光社)より 1968年

絵本の本文中で使われている作品の逆版が表紙に採用されています。ちひろと武市は、描かれた絵を裏から電灯に透かして逆版で使うなど工夫していました。

いわさきちひろ おもちゃのピアノ『あめのひのおるすばん』(至光社)より 1968年

絵本にする際には、印刷の段階で片手になっています。ピアノの一音一音が響いてくるように感じられます。

いわさきちひろ カーテンにかくれる少女『あめのひのおるすばん』(至光社)より 1968年

一度ぬった色を洗面所でジャージャーと洗い流し、そのうえにぬるという作業をくり返し、複雑な色調をつくり出しました。ひとりで留守番をする少女の心理が巧みに表現されています。

いわさきちひろ 窓ガラスに絵をかく少女『あめのひのおるすばん』(至光社)より 1968年


「ちひろの幼い時のエピソードには、東京から信州の松本へ帰る列車の中で、ちひろが、自席の曇った窓ガラスに絵を描いていると、ほかの席人からも『お嬢ちゃん、こっちの窓はまだかけるよ』と声がかかり、ちひろは次々と絵を描いて回り、一車両の窓いっぱいにちひろの絵が描かれた列車が走っていった、という話が残っている。」
松本猛『いわさきちひろ 子どもへの愛に生きて』(講談社)より 2017年

この絵はちひろが自身の幼い日のことを思い出しながら描いたのかもしれません。絵本のなかでは、窓ガラスに描かれた絵の作品とこの作品を合成し、美しい印刷で仕上げられています。

◆絵本のじかんについて
https://chihiro.jp/tokyo/events/80279/

◆いわさきちひろブックリスト
https://chihiro.jp/booklist/

(K.R.)